チャットボットの進化の歩み
サービスや機能の問い合わせなどで利用されているチャットボットは、人的コストの削減や顧客満足度の向上など様々な効果が期待され、注目を集めています。
AIの成長とともにチャットボット市場も発展し、まさに今がブームと言えますが、実はチャットボットには意外と長い歴史があり、その中で開発され、進化、発展を遂げてきました。では、チャットボットはどのように開発され、どのように進化してきたのでしょうか。
この記事では、チャットボットの歴史を紐解きながら世界、主に開発のさきがけとなったアメリカと、日本のブームを紹介し、市場の状況や将来性などについても解説していきます。
チャットボットの始まり
チャットボットは「対話(chat)」と「ボット(bot)」を組み合わせた造語です。ボットとは自動化プログラムのことで、いわゆる人工知能のひとつの形と言えるでしょう。一般的に対話を自動化する、非対面のコミュニケーションツールとして活用されています。
スマホやインターネットが普及し、企業などがチャットボットを活用することで多くの人に認識されてきています。
このチャットボットの技術はごく最近のことと思われがちですが、その歴史は古く1950年代に始まったAIの登場と進化にも関わっています。
チャットボットの歴史・1960年代
まず、チャットボットの登場から見ていきましょう。始まりは1960年代のアメリカです。
チャットボットの元祖となったのは、1966年に登場した「ELIZA(イライザ)」です。初期の自然言語処理プログラムのひとつで、入力されたテキストのキーワードをもとに単純な回答をパターン化して応答する簡易的なチャットボットでした。
当時は医療現場において、精神療法士に代わるコンピュータープログラム「DOCTOR」が知られていましたが、まだ一般的なものではありませんでした。
チャットボットの歴史・1990年代
それから1990年代に入ると、フリマアプリやネットオークションなどの一般消費者間取引でチャットが使われるようになります。
また、企業がユーザーからの問い合わせに対応するカスタマーサポートでチャットが使われるようになり、BtoC向けのチャットボット開発につながっていったのです。
その後、Microsoft社からMicrosoft Office のユーザーインターフェイス「Officeアシスタント」が登場します。アメリカではクリッパーと呼ばれるキャラクターでしたが、日本ではイルカのカイルがヘルプメッセージの表示などを行っていました。
チャットボットの歴史・2000年代
アメリカでチャットボットが一般の人々に知られるようになったのは、2011年に発売となったiPhone4sに搭載されていた「Siri(シリ)」がきっかけとなっています。
それまでのチャットボットはテキストでの入力による会話でしたが、Siriは音声認識機能を備えたアシスタントであり、入力と音声による問いかけや返答が可能になりました。
例えば、ユーザーが「明日の予定を教えて欲しい」と問いかけると、カレンダーに入力してあったスケジュールを音声とテキストで返答することができたため、その利便性が全世界のユーザーに大きなインパクトを与え、チャットボットという存在が認識されていったのです。
世界のチャットボット元年・2016年
そしてチャットボットが大きくブームとなったのは2016年、Facebook、Google、Microsoft社らがチャットボット関連のサービスや製品を発表したことが影響しています。
Microsoft社は「Build2016 : Microsoft Bot Framework」、Facebookは「Messenger Platform at F8」Googleは「I/O: Building the next evolution of Google」をそれぞれ公開しています。
翌年の2017年にはAmazonの「Alexa」、Googleの「Googleアシスタント」を始めとした家庭用のスマートスピーカーが発売され、一般消費者にチャットボットが普及するようになったのです。
また、チャットボットはホームページやメッセージアプリに簡単に実装することができるため、その活用の広さがブームに影響を与えたと言えます。
日本におけるチャットボットブームは?
それでは、日本におけるチャットボット普及はどのように進んだのでしょうか。
2016年当時、日本では一部のサービスで試験的に導入されていましたが、企業が本格的に導入を開始したのは翌年で、そのことから日本では2017年がチャットボット元年と言われています。
そして2019年、法人向けのLINE公式アカウントがチャットボットのAPIを公開し、誰でも簡単にチャットボット機能の開発、また企業独自のサービスのアレンジが可能になりました。
そこでLINEの一般ユーザーもチャットボットを目にしたり、利用したりする機会が増え急速に普及していったのです。
現在ではメッセージアプリだけでなく、Webサイトでの商品・サービスに関する問い合わせや検索のサポートなど様々に活用されています。
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チャットボットブームの背景・AIの進化
世界的なチャットボット元年は2016年、日本では2017年と言えますが、このようにチャットボットが広くブームとなった要因には、AIの進化があげられます。
AIの進化にはブームがあり、現在は第3次AIブームと言われています。
AI(Artificial Intelligence)という言葉が初めて使われたのは1956年のダートマス会議で、これにより人工知能という学術分野が確立されました。コンピューターによる推論や探索を行うことによって回答が導き出されるという論理で、これが第1次ブームとされています。
第2次ブームは1980年代、パソコンが登場したことにより、「エキスパートシステム」という概念が注目されました。これは、人間の考えを知識としてコンピューターに記憶させることによって、より専門性の高い質問でも回答できるようになるというものです。
ただし、これら膨大な知識を人間が手動で入力しなければならず、必ずしも正確な答えを導き出されるわけではなかったため、問題の解決につながらずブームは下火となりました。
ブームを加速させたディープラーニング
そして迎える第3次ブームは、1990年代、ここではコンピューターの性能が格段に向上しました。2000年代にインターネットやスマホの普及により情報量が増加し「ビッグデータ」の時代が到来、その膨大な情報から必要なデータを選び学習する「機械学習(マシンラーニング)」が注目されます。
2006年には、機械学習からさらに学習を階層化する「深層学習(ディープラーニング)」が提唱され、AIの第3次ブームを加速させていきました。
それを後押ししたのが、2012年に開催された「画像認識」コンテストでトロント大学チームが公開した「AlexNet」。ディープラーニングを活用した画像解析精度の高さが注目されたのです。
そしてディープラーニングは画像認識のほかにも音声認識、データの異常を検知する時系列異常検知や、データの圧縮・可視化などを行う次元削減などに応用されていきました。
このようなAI技術の発展と、インターネットやスマホの普及によってチャットボットは進化していったのです。
チャットボット市場の状況
現在チャットボットは世界に広く普及し、株式会社グローバルインフォメーションが2021年4月に発表した市場調査レポート「チャットボットの世界市場」によると、
2020年は29億米ドル(約3,304億5,977万円)で年平均成長率は23.5%、
2026年には105億米ドル(約1兆1,682億1,396万円)以上
に達すると予測されています。
日本では、矢野経済研究所が発表した「対話型AIシステム市場に関する調査」があり、それによるとチャットボットの国内市場規模は2018年に24億円、2022年には132億円にまで成長すると予想されています。
今後もテクノロジーの進化によってより高精度な人との自然な会話が実現し、活躍の場が広がると考えられています。
チャットボットの将来性
これからも成長と拡大が見込まれるチャットボットは、企業の将来性にも大きく関わってくると考えられます。
その理由として、生産人口の減少による働き手の不足があげられます。総務省では、日本の15~64歳の生産人口は1995年の8,716万人をピークに年々減少し、2020年には7,341万人、2030年には7,000万人以下になると予測しています。
懸念される人材不足や日本政府が推進する働き方改革により、日本の企業には労働生産性の向上が求められており、顧客対応だけでなく社内利用による業務の自動化など、チャットボットの導入が急務となっています。
特に現在、地方自治体ではコロナ関連の問い合わせ対応でチャットボット導入が増加、またテレワークの推進により自宅のパソコンで業務に関する不明点を解決できる社内向けのチャットボット活用が増加しています。
また、これまでのようにカスタマーサポートとして24時間窓口対応ができるというだけでなく、AIが顧客の要望をくみ取ってお勧めの商品やサービスを提案するというチャット型コマース(CC)などへの活用も期待されています。
チャットボットのブームは続く!
チャットボットは、労働生産性の向上を図りながら人と企業・団体などをつなぐコミュニケーションツールとしてますます普及すると考えられます。
さらにAIなどテクノロジーが進化することによって、チャットボットの機能やサービスが充実すれば、顧客満足度の向上、新たなビジネスの創造にもつながり収益の拡大・企業成長など様々な可能性が期待できるでしょう。
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