DX推進の加速に伴い、企業ではナレッジマネジメントの重要性が高まっています。企業内には膨大な情報が蓄積されており、それらを横断的に検索する手段として1990年代から活用されてきたのがエンタープライズサーチです。エンタープライズサーチは検索技術の進化とともにその機能も向上してきましたが、近年、生成AIを活用したRAG型チャットボットが登場し、新たなナレッジ共有の選択肢として注目されています。エンタープライズサーチもRAG型チャットボットもどちらも社内に存在する大量の資料やデータから欲しい情報を取得することが可能です。では、エンタープライズサーチとRAG型チャットボット、どちらの手法がナレッジ活用・共有の促進に適しているのでしょうか? 本記事では、エンタープライズサーチとRAG型チャットボットの特徴やメリット・デメリットを比較し、どちらがナレッジ活用・共有におすすめなのかを解説していきます。
RAG型チャットボットとは
RAG(Retrieval-Augmented Generation)型チャットボットは、社内の情報を効果的に活用し、業務の効率化や情報共有を促進するために設計されています。ユーザーが自然言語で質問をすると、チャットボットは社内のさまざまな情報に基づいて、適切な回答を生成します。
RAG型チャットボットで活用できる社内情報
RAG型チャットボットが活用する社内情報には、以下のようなものがあります。
- 業務関連資料:
業務マニュアル、手続きガイドライン、プロジェクトレポートなど、業務の標準化や手順の明確化に活用されるドキュメント。 - 業務データベース:
顧客情報(問い合わせ履歴やフィードバックなど)、販売記録、在庫管理データなど、業務上の意思決定や分析に活用されるデータ。 - ナレッジリソース:
社内FAQ、トラブルシューティングガイド、過去のプロジェクトの成功事例、ベストプラクティスなど、社員が業務上の課題解決や効率向上のために参照できるドキュメント。 - 設計・技術資料:
システム設計書、仕様書、アーキテクチャ図、APIドキュメント、技術検討資料、建築・製造業の設計図面など、設計や技術的な情報を整理したドキュメント。 - 社内コミュニケーションログ:
SlackやTeamsのチャット履歴、会議の議事録、メールのやり取りなど、社内での情報共有や意思決定のプロセスを記録したデータ。
RAG型チャットボットのメリット
- 導入の容易さと運用コストの最適化
ベンダーが提供するSaaS型のRAGチャットボットを利用することで、初期費用を抑えたスモールスタートが可能です。多くのベンダー製品では、社内文書やマニュアルをアップロードするだけで簡単に導入できるインターフェースを提供しており、専門的なAI知識や開発スキルがなくても運用可能です。例えば、PDFやWord文書、PowerPoint、Excelファイルなどの既存ドキュメントをアップロードするだけで自動的にインデックス化され、すぐに質問応答システムとして機能します。これにより、IT部門に大きな負担をかけることなく、各部門が主体となって導入・運用できるメリットがあります。また、まずは小規模な試験的導入を経て、効果を検証しながら段階的に拡大する戦略が取りやすくなります。 - 情報の正確性の向上
RAG型チャットボットは、社内の情報を専門に扱うため、外部情報が検索対象となる場合に比べ、ハルシネーション(幻覚)のリスクが大幅に低減します。これにより、従業員は信頼性の高い情報に基づいた意思決定ができるようになります。社内文書という限定された情報ソースを参照するため、正確な回答が期待できます。 - 業務の効率化と情報アクセスの最適化:
社内のナレッジベースを活用し、従業員は必要な情報に対話形式で迅速にアクセスできます。例えば、社員が「プロジェクトXの進捗は?」と尋ねると、チャットボットは関連するドキュメントやデータを即座に提示します。検索作業の手間を削減し、業務の生産性を向上させます。複数の文書から必要な情報を抽出・統合するため、従業員は個別に文書を開いて内容を確認する手間が省けます。 - ナレッジの属人化を防止
従来、特定の担当者に依存していた業務知識やノウハウをチャットボットが整理して提供することで、属人化を防ぎます。これにより、新入社員の早期戦力化や、異動・退職時の業務引き継ぎのスムーズ化が実現できます。散在していた暗黙知を形式知化し、組織全体で共有・活用できる環境を構築できます。
RAG型チャットボットのデメリット
- 情報のメンテナンスの必要性
社内情報の更新や整理が欠かせません。情報の陳腐化や誤ったデータが混在すると、回答の質が低下するため、定期的なメンテナンスが必要です。 - ハルシネーションリスク
社内情報のみを対象とする場合でも、生成AI固有のハルシネーションリスクは完全には排除できません。完全に事実と合致した情報を提供するためにも、運用側でのチェック体制やフィードバック機能の整備は重要です。
社内ナレッジマネジメントへの活用法
RAG型チャットボットは、特に社内のナレッジマネジメントにおいて大きな効果を発揮します。具体的な活用方法には以下のようなものがあります。
- 社内ヘルプデスク:
従業員が日常的に抱える疑問や問題に対して、迅速に回答を提供します。これにより、ヘルプデスクの負担を軽減し、業務の流れをスムーズにします。 - 教育・研修のサポート:
新入社員や異動した社員が必要な情報をすぐに得られるため、教育や研修の効率が向上します。過去のプロジェクトや成功事例を参照しながら学ぶことができます。 - 会議の記録と振り返り:
チャットボットは会議の議事録を参照し、過去の討議内容を迅速に引き出すことができます。これにより、社員は情報の振り返りが容易になり、次のアクションを明確にする手助けとなります。 - 顧客サポートの向上:
顧客からの問い合わせ履歴やフィードバック情報を活用することで、過去の事例を参照した適切な提案や解決策を迅速に提供できます。これにより、顧客満足度の向上につながります。
エンタープライズサーチとは?
エンタープライズサーチ(Enterprise Search)とは、企業のデジタルデータを、保管場所(社内のサーバやクラウドサービスなど)を気にすることなく横断検索するための企業内検索システムです。

多様なデータソースに対応
企業内の文書、メール、データベース、ナレッジベース、クラウドストレージ、さらにはIoTデバイス等、異なる情報ソースにまたがるデータを統合的に検索可能です。
最新技術の活用
以前は主にキーワード検索が中心でしたが、最近では自然言語処理(NLP)や機械学習を活用したセマンティックサーチが取り入れられており、ユーザーが自然な文章で質問しても適切な情報が検索できるようになっています。さらに、RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術を活用して、生成AIとの連携が可能な製品も登場しています。
セキュリティとアクセス管理
社内情報の中には機密性の高いデータも含まれているため、ユーザーごとに適切なアクセス権限を設定しながら情報を検索することも可能です。
また、市場ではMicrosoft SearchやGoogle Cloud Search、IBM Watson Discoveryといった国際的な製品はもちろん、国内製品としてNeuronやQuickSolution、さらにはオープンソースのApache SolrやElasticsearchといった選択肢も存在し、企業のニーズに合わせた導入が進められています。
エンタープライズサーチのメリット
エンタープライズサーチを導入することで、企業全体に多くのメリットが得られます。具体的には以下の通りです。
- 業務効率の向上:
複数のシステムやデータベースに分散している情報を、統一された検索窓口で探し出すことができるため、必要なデータへのアクセスが迅速化されます。これにより、調査・レポート作成などにかかる業務時間が大幅に削減されます。 - ナレッジ共有の促進:
過去の事例や知見が蓄積された文書を簡単に検索できることで、部門間の情報の偏在や属人化を防ぎ、組織全体での知識共有がスムーズに行われます。 - セキュリティの強化と適切なアクセス管理:
情報が一元管理されるため、漏洩リスクの低減とともに、各ユーザーの役割に応じたアクセス権限の設定が容易になります。シングルサインオン(SSO)などと組み合わせることで、より安全な運用が期待できます。 - 検索精度の向上:
インデックス化されたデータベースからの検索により、類義語対応や異表記の処理、自然言語処理技術の活用で、ユーザーが本当に求める情報がより正確に表示されるようになっています。生成AI連携機能が搭載されたものでは、必要に応じた情報のサマリー生成も行われ、従来の単なるドキュメントリスト以上の価値を提供します。
エンタープライズサーチのデメリット
一方で、エンタープライズサーチ導入にはいくつかの留意点も存在します。実際の運用で注意すべき点は以下です。
- 管理作業の複雑さ:
エンタープライズサーチシステムの検索精度を維持・向上させるためには、データの構造やクエリのチューニングを継続的に行う必要があります。膨大なデータを一元管理できるゆえに、管理作業には時間と労力がかかり、運用コストが増大する可能性もあります。 - 導入・初期コストの高さ:
高性能なエンタープライズサーチシステムは、システム構築やカスタマイズ、各種データソースとの連携、セキュリティ対策など多岐にわたる初期投資が必要となります。クラウドベースの場合、従量課金制で運用コストの予測も重要な要素となります。 - 運用とメンテナンス:
情報の更新や新たなデータフォーマットの追加により、継続的なインデックスの最適化や検索ロジックの見直しが必要です。また、システム全体の監視、セキュリティパッチの適用、ユーザーからの問い合わせ対応など、専門知識を持った運用担当者の手が求められることも考慮すべき点です。 - 利用の複雑さ:
高度な検索機能を使いこなすためには、ユーザーが正確なキーワードや適切なフィルターを設定する必要がある場合もあります。近年は自然言語での検索インターフェースが改善されつつありますが、初めて利用する方にはやや習熟が必要な点は否めません。
エンタープライズサーチは、適切に導入・運用することで、企業の情報活用と業務効率化に大きく貢献する可能性を秘めています。デメリットを理解し、適切な管理体制とセキュリティ対策を整えることが、エンタープライズサーチの導入と運用を成功させるために重要です。

RAG型チャットボットとエンタープライズサーチの違い
RAG型チャットボットとエンタープライズサーチは、大量の情報から必要なデータを取得するための手法ですが、そのユーザーインターフェース、利用シーン、そして情報の提示方法において大きな違いがあります。以下の記事では、最新の技術動向や実運用の事例を踏まえて、両者の特徴と使い分けのポイントを詳しく解説します。
ユーザーインターフェース上の操作の違い
【RAG型チャットボット】
RAG型チャットボットは、自然言語での質問に対して文脈を理解し、社内のドキュメント群から最適な情報を抽出・要約して提示できるため、ユーザーは複数の文書から必要な情報を探す手間を省けます。理解しやすさと効率性を重視していて、基本的には資料の中身を確認せずに答えを得られますが、重要な意思決定には原文確認が推奨されます。多くの製品では、回答とともに原文の参照リンクや引用情報を提供する仕組みが備わっていて、必要に応じてファクトチェックを行うことも可能です。
対話型インターフェースが特徴で、チャット形式でやり取りが進行します。操作方法はシンプルで、通常は単一の入力欄に質問を入力するだけです。モバイルデバイスでの使用にも適しており、音声入力にも対応している製品が増えています。
【エンタープライズサーチ】
従来はキーワードベースの検索が主流でしたが、現在のエンタープライズサーチでは自然言語処理(NLP)を活用した意味検索(セマンティック検索)を搭載している製品も多数存在します。ユーザーは検索クエリを入力することで、関連する文書や資料へのリンク、抜粋、要約、プレビューなど多様な形式で情報にアクセスできます。高度なフィルタリング、メタデータによる絞り込み、Boolean演算子(AND/OR/NOT)を用いた複合条件など、精密な検索条件指定が可能である点も特徴です。
検索結果は、該当文書へのリンクや抜粋がリスト形式で提示され、ユーザー自身が必要な情報を選択し、出典情報や引用元を確認しながら情報を収集する形になります。
利用シーンの違い
【RAG型チャットボット】
RAG型チャットボットは、問い合わせ対応、社内ヘルプデスク、急な問題発生時の解決支援など、迅速かつ分かりやすい情報提示が求められる場面で効果を発揮します。特に、ユーザーが正確な検索キーワードを知らない場合や、複数の情報源から最適な情報を取得する必要がある場合に有用です。情報は要約・統合され、自然な文章で提示されるため、情報の概要を素早く把握したいケースに適しています。特に探索的な情報収集や初期調査、概要把握など、包括的な理解を短時間で得たい場面で優れた効果を発揮します。
【エンタープライズサーチ】
エンタープライズサーチは、社内の大規模なナレッジ管理、法務・技術情報管理、研究開発など、特定の文書や出典情報が重視される業務に最適です。たとえば、設計資料や契約書など、既にどの資料に情報が記載されているか把握している場合、該当文書へ直接アクセスするためのツールとして有用です。情報提示は該当文書へのリンクや抜粋をリスト形式で行われユーザー自身が検索結果を確認し、必要な情報を抽出するプロセスをサポートする設計となっているため、厳密な文書検証、証拠収集、詳細分析など、該当文書を直接活用する業務プロセスに適しています。
RAG型チャットボットは探索的な情報収集や初期調査、全体像の把握に適している一方、エンタープライズサーチは厳密な文書検証や証拠収集、詳細分析といった正確性が求められる業務に適しています。
企業はこれらの技術を効果的に使い分けることで、業務効率の向上や情報活用の最適化が実現され、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に大きく貢献することが可能となります。自社のニーズに合致したツール選定が、最終的には業務全体の成功につながるでしょう。
生成AIによるRAG機能搭載のエンタープライズサーチの登場
近年、生成AIやRAG(Retrieval Augmented Generation)技術の進化により、従来のエンタープライズサーチに加えて、生成AIを活用したRAG機能を搭載するエンタープライズサーチ製品が登場しています。この動向により、従来のRAG型チャットボットが持つアドバンテージが縮小しつつある一方で、両者には依然として特徴と利用シーンごとの違いが存在します。
RAG型チャットボットとRAG機能搭載のエンタープライズサーチの違い
従来、エンタープライズサーチは主にキーワード検索やセマンティック検索をベースに運用されてきました。しかし、生成AIを取り入れたRAG機能が搭載されることで、ユーザーの問い合わせに対して文脈を組み込んだ統合的な回答を提供できるようになっています。
利用シーンと機能の違い
【RAG型チャットボット】
- RAG型チャットボットは、チャット形式のインターフェースがベースになっていて、自然な文章で質問すると、社内のドキュメントをもとに即座に回答を生成します。検索キーワードを工夫する必要がなく、直感的な操作で欲しい情報に素早くアクセスできます。
- リアルタイムにユーザーの意図や背景を把握し、柔軟かつ適切な応答を提供するため、問い合わせ対応、社内ヘルプデスク、カスタマーサポートなど、迅速な問題解決が求められるシーンに適しています。
- 参照元のドキュメントリンクや原文の提示機能もあり、信頼性の高い情報提供が可能です。
【RAG機能搭載エンタープライズサーチ】
- 従来の検索機能に、生成AIによる文脈理解や要約機能が加わることで、検索結果の要約や補足情報の提示が可能になっています
- 現在、多くのエンタープライズサーチでは、生成AIによる回答生成や要約はオプション機能として提供されており、基本的には資料の絞り込みを重視した設計になっています。検索結果は、リンク、抜粋、プレビューなど多様な形式で表示されるため、抽出した該当文書をそのまま活用することが求められる法務、技術情報、研究開発などの業務に適しています。
導入方法とコストの違い
【RAG型チャットボット】
- 多くの場合、クラウドサービスとしてAPIやSaaS形式で提供されるため、初期導入が容易で、低コストかつ迅速な展開が可能です。
- 部署単位でのスモールスタートが容易なだけでなく、全社展開へのスケーラビリティも高いため、DX推進の初期段階での試行や迅速な現場対応に適しています。
- システム統合の負担が軽減されることで、運用面での柔軟性や迅速なアップデートが期待でき、ユーザーの利便性が高い点も大きなメリットです。
【RAG機能搭載エンタープライズサーチ】
- オンプレミス環境での導入が主流で、企業ごとにカスタマイズが必要な大規模プロジェクトとなるケースが多く、専用サーバーの用意や専任の担当者が求められるため、導入・運用にかかるコストや負担が大きいという特徴があります。
- 最近ではクラウドやハイブリッド型の製品も登場しており、柔軟な運用が可能になっていますが、依然としてシステム統合の負担は無視できません。
CAIWA Service ViiiのRAG型チャットボットをナレッジ共有と活用促進に活用

株式会社イクシーズラボが提供しているAIチャットボット「CAIWA Service Viii」には、「ChatGPT応答機能」と「Q&A自動生成機能」の2種類を実装。またRAG機能も用意されているため、社内のナレッジ共有と活用促進に最適なシステムとなっています。
ChatGPT応答機能
CAIWA Service ViiiのRAG は、CAIWA(独自開発AI)とChatGPT(生成AI)の回答を比較できるようになっています。この機能は誤情報を提示するリスクの少ないCAIWAと、広範な対応が可能なChatGPTの利点を融合し、両者の「いいとこどり」を実現しています。また回答の精度を向上させるために、RAGは回答生成に使用するドキュメントを1つに絞り込みます。さらにチャット画面には生成元のファイルも表示されるため、必要に応じて内容を確認し、ファクトチェックを行うことも可能です。CAIWA Service ViiiのRAGは、これらの機能により、ハルシネーション(虚偽情報)の少ない、高精度な回答を提供します。
本機能の事前設定は、生成元となるファイル(PDF、PowerPoint、Word、Excel、テキスト、CSV形式のファイル)をアップロードするだけで完了し、すぐに利用を開始できます。
Q&A自動生成機能
CAIWA Service ViiiのRAGには、ワンクリックでQ&Aを自動生成する機能があります。アップロードした生成元ファイルから作成されたQ&Aは、CAIWAの知識データやチャットの回答データとして活用できます。
まとめ
企業におけるナレッジ活用・共有の促進には、情報検索の効率化や最適化が欠かせません。エンタープライズサーチとRAG型チャットボット、近年では双方の機能の差は縮まりつつありますが、ユーザー体験、導入方式や運用コストには、違いがあります。情報検索システムの導入時には、双方のメリット・デメリットをよく比較し、自社の規模と運用形態に合ったシステムを選択しましょう。